どうすれば従業員が幸せに働ける会社を作る事が出来るのか?
その疑問に答えたのがトヨタを3年で辞めた髙木一史さんの著書『拝啓人事部長殿』です。
トヨタを3年で辞めた若手人事が、
「どうすれば日本の大企業の閉塞感をなくせるのか?」という問いを掲げ、
その回答を手紙形式でまとめた全524Pに及ぶ力作。出版社より出典
高木一史さんは現サイボウズ人事労務部として本書を執筆しております。新入社員としてトヨタ自動車株式会社に入社し、人事の仕事に関わっていく中で1人の人間として重視されている感覚の薄さや会社の仕組みがむしろ社員を不幸にしているのではないかという疑問を感じ3年でトヨタを去ったということです。
本書の中でトヨタ自動車のことを悪く書いていることはありません。むしろトヨタで働いた経験を生かして日本の人事制度についての疑問に答えている1冊でした。
- なぜ、トヨタの人事を3年で辞めたのか
- 会社を成り立たせている10の仕組み
- なぜ会社の平等は重んじられるのか?
- なぜ会社の成長は続いたのか?
- なぜ会社の変革はむずかしいのか?
- 現地現物レポート 新しい競争力の獲得を目指す12企業
- サイボウズ人事制度の変遷レポート
- 会社をインターネット的にする
- ぼくはなぜ、この手紙を書いたのか
拝啓人事部長殿 要約
拝啓人事部長殿は大きく3つに分けて書かれていると感じました。『現在の人事の問題点』から始まり、『日本企業の歴史』、『今後の人事に求められているもの』に分かれていると感じました。
- 現在の人事の問題点
- 日本企業の歴史
- 今後の人事に求められているもの
現在の人事の問題点
拝啓人事部長殿は著者の高木さんが人事部長に宛てた手紙形式として書かれています。始まりは、新入社員で人事部として入社されたトヨタ自動車を辞めた理由から始まっていきます。
髙木さんの入社時の配属希望先は調達部でしたが、配属先は人事部でした。配属当初に当時の人事部長から『花よりも花を咲かせる土になれ』という言葉を受け人の幸せをサポート出来る人事部の所属を受け入れておりました。
ただ、髙木さんは仕事をしていくにつれ2つの閉鎖感を感じたそうです。「1人の人間として重視されている感覚の薄さ」と「1人ではなにも変えられない、という無力感」があったそうです。
そもそも、人事がつくる仕組みとして大きく4つに分類されています。大きく「あつめる」、「条件をきめる」、「はたらく」、「はなれる」があり会社に必要な人を集めて、働いてもらう上で条件を決めて、実際に働いてもらい、会社に会わなければ離れてもらうというサイクルです。
多くの日本の企業では同じような人事の仕組みを取っており、トヨタ自動車も同じ仕組みを取っていたそうです。
採用であれば、新卒一括採用は当たり前。契約条件は、終身雇用を前提とした週5日勤務の定期人事異動は当たり前。働き方も年功序列により評価昇級制度。定年退職前提の雇用。という制度に閉鎖感を感じられたいうことです。
日本企業の歴史
トヨタを去る決意をした際に高木さんは先輩社員から3つの疑問を突きつけられました。
⑴なぜ会社の平等は重んじられているのか?
⑵なぜ会社の成長は続いたのか?
⑶なぜ会社の変革はむずかしいのか?
この3つの疑問に答えを出すために戦前(1930年代)から現代までの会社の歴史についての解説もされております。日本企業が行なってきた制度により今の日本企業があるということを教えてくれます。
閉鎖感を感じていた人事の仕組みは、歴史的に見ると、むしろ社員の幸せと会社の成長を両立するものだったのです。
今後の人事に求められるもの
ただ、現在の社会は「みんなの理想」を求める時代から、「1人ひとりの理想」を求める時代に変わっていっているのです。
今後の未来に向けて人事に求められているものは何か理解するために、インタビュー方式で『現地現物レポートあたらしい競争力の獲得を目指す12企業』として日本の人事を変える取り組みを行っている日本を代表するNTT、ANA、味の素、タニタなどの企業を紹介されています。
そして、最後にサイボウズで取り組んでいる人事に関わる10の仕組みを紹介されています。特に印象に残ったのは社会はインターネット化しているのに会社は未だにできていないということです。サイボウズでは徹底的な情報共有を行うことで従業員1人1人に主体性を持ってもらう制度を取られているという事でした(詳細は割愛しますので、是非本書を手にとっていただきたいです)
拝啓人事部長殿 感想
まず率直な感想は著者の髙木さんが1990年代生まれであるという驚きでした。読む前には全く知らなかったので、勝手な認識で書いた人は40くらいの方かな?と思って本書を購入しましたが、読んで知ったので驚きでした。
人事に関わる10つの仕組みを分解して、現在の日本企業と今後の時代に必要になる人事の仕組みを分かりやすく解説されておりました。人事に関わる仕事もしている筆者にとって自分の仕事の考え方や進め方を改めて整理する事ができる1冊でした。
筆者も長く企業に勤める身として社員の方にも「みんなの理想」を押し付けてしまっている事に強く反省しました。実体験として私が新卒で入社した頃(2005年)は階段を登り出世していくのが当たり前であり、「出世したくない」なんていう人がいたら異常だというような感覚でした。
多くの社員の方と関わる中で、とても考え方を改められる出来事がありました。それは『出世を考えていない』という方が想像よりも多くいた事です。当時は相当な驚きと何を言っているんだ。と思った事を覚えています。
ただ、この考えは古かった。と反省しています。
本書にもある「みんなの理想」でなく「1人ひとりの理想」を追求するということが人事として非常に大事であると感じました。おそらくいつの時代でも出世をしたくない人は、いたでしょう。ただ、そのような時代でもなく風土でなかったため個人の理想を押し殺していたのでしょう。
微力ながら、みんなが幸せになるため個人が活躍できる人事制度に変えていこう。と思える1冊でした。
また、良本を出版してくださることを楽しみにしております。
